この仕事を始めてから改めて気付いたことの一つに、ヒトの感情というのは大元の部分では案外シンプルなものだ、ということがあります。
仕事柄、動物と接する時間が長いのですが、彼らが求めるものを与えれば喜ぶし、彼らの求めるものを与えない、あるいは拒絶するものを与えれば怒る。つまり、喜ぶことをすれば嬉しいと感じ、イヤなことをすれば嫌だと感じるだろう、ということです。
そんなこと当たり前だと思われるでしょうか。でも、一見当たり前のことなんですが、実感できたのは割と最近になってからで、こうしてストレートにフィードバックとしてこちら側へ返ってくるモノが、ヒトの場合は単に隠れているだけで、実は非明示的に内在しているということに、今更ながら気付かされたわけです。
ヒトの場合、他の動物と違って、自分の感情を意図的に隠すことが出来ます。イヤなことを言われても、その人物との関係が重要であれば、笑顔で対応する、あるいは意に反して謝罪をすることもあるし、一方で嬉しいことがあっても、周囲に妬まれて不利益になると思えば、あえてつまらなさそうな顔をしてみせることもある。皆が感情剥き出しになってしまえば、人間関係を維持するのは難しいことでしょう。このように、直感的な感情を抑制し、表面的には異なる感情表現を装うという行為により、我々は必要な人間関係をコントロールし、うまく社会生活を営むことが出来ているわけです。
直感的な真の感情が表出するのを抑制する機構の進化は、ヒトが高度な社会性を有することを可能にしました。しかし他方で、他者の真意を汲み取ることを難しくさせてしまいました。「嫌がってないようだから、もっと厳しくしてもいいだろう」「あの人は欲が無いんだな、じゃあ遠慮しなくていいか」等と、感情の誤認が生じ、後々トラブルの元となることも多々あると思います。
嫌がっていないように見えたのに、後々苦情を言われる、あるいは自分から離れてしまうということがあって、相手が何を考えているか混乱した、何を信じればいいのか分からなくなる、ということは、仕事や恋愛など、人間関係を維持する上でしばしば直面する問題です。
しかし原点に立ち返って、表に出ない感情を推察し対応することを心がければ、表面上の感情表現だけに捕われて傍若無人に振る舞い嫌われる、ということも無くなるはず。
相手の本当の感情を推察することは、日常的に多くの場面で必要になります。特に、多くの部下を統率し業績を上げなければならないような立場なら、尚更でしょう。
自分にとっては、大学時代にアイスホッケー部でキャプテンをやったことがすごくいい経験になりました。素人の団体ではあるのですが、大会で優勝するという一つの目標にうまく持って行くという意味では、もっと上のレベルのスポーツや、社会に出てリーダーとしてチームを引っ張るのと相通ずるものがあったと思います。それで、僕自身はアイスホッケーの経験者でもなく、有無を言わさず指示に従わせるような力は持ち合わせていなかったものですから、如何にうまく他の部員を全体の目標に沿う形で動機づけさせるか、ということに力を尽くしました。
単純に言えば、何か指示を出すときに、「部の方針だから従え」というのでなく、「こうすれば試合で活躍できるよ」という言い方に変えるということです。自分と全体という概念がまだ一致していない状態で全体の利益の為に行動することを強いても、それは十分なモチベーションとして働きません。しかし、その人個人の利益になると思えば、指示もしっかり聞くようになるし、練習もきちんとする割合が高くなります。そうやってある程度上達して試合にも出るようになり、自分がチームの一員であるという自覚が芽生えれば、自然とチーム全体の利益のために行動出来るようになるわけです。
これは細かい指示の出し方にも関わっていて、指示を出すときに単に手順を説明するだけでは不十分ということにも繋がります。ホッケーの練習メニューはかなり複雑で、例えば5人がホイッスルで同時にスタートし、各プレーヤーがそれぞれ異なる手順でポジショニングを変えながらパスを回しゴールへ向かうようなのも多いのですが、このとき「Aがゴール裏からパスを出してBは45度ポジションで受けてスイングしてきたCへリターンパス、そこからサイドをあがってくるDへ繋いで…」と説明して、一応形だけは出来たとしても、試合では絶対に使えません。ちょっとでもその通りの動きが出来なければ、もう何をしていいかわからなくなるからです。
複雑な指示を出すときであっても、単に手順を説明するのでなく、「個々の動きにどういう意図があるのか」をしっかり説明すると、効果的に学習が為されます。ホッケーの例であれば、「敵のFWがここに走ってくるのを見越してこちらへパス、すると今敵のDFはここにいるから…」というようにきちんと「なぜこちらへ走るのか、パスを出すのか」というところまで説明します。「今のようなケースならこちらへパスを出したけど、じゃあ敵が別の方向から来たら?」という風に質問して考えさせることで、より本来の目的が理解されます。このようなことを積み重ねると、試合で敵が普段と違うパターンで攻めて来ても、柔軟に対応できるようになるし、その後のフィードバックも含め練習全体が効率的になってきます。こうして、自分が指示を守り与えられた役割をこなすことが自分の利益に繋がることが理解できれば、より効率的な学習ができるはずです。
会社の仕事なんかでも、「仕事の手順をちゃんと1から丁寧に教えてやったのに部下の理解が悪い、やる気も感じられない」と愚痴を言ってる人は、多いのではないでしょうか。個々の手順の目的をはっきりさせる、さらにそれらをまず個人の利益としてのモチベーションにうまく繋げてやる、ということが出来れば、いい上司、いいチームになるだろうと思います。新入社員などはまだチームや会社全体の利益に関心が低いわけですから、仕事をこなすことが個人としての評価に繋がるような雰囲気を作り、まずはモチベーションを維持させつつ基本的な仕事の能力を身につけさせる、ということが必要になってくるでしょう。
最近のコメント